宇田川さんの文学ー原風景と幻風景の活写

田辺達也

 宇田川敬之助さん・愛子さんご夫妻とのおつき合いは5年になります。この間、浦安ー八代、八代ー浦安の二都物語を丁寧に重ねてきました。河童サミットでは米子以来、東京・福島・大村で、龍ちゃんのカッパ館(焼津)の出会いと共同もあります。

 思うに、ベカ舟カッパ・宇田川さんの回りにはアロマが漂っています。いつの間にかみんなを色めき立たせ、とりこにしてしまう不思議な香気です。妖術使いの媚薬ではない。 

 では、いい気分の素とは?

 生来のやさしさ、文芸と弁論の力、七変化のパフォーマンス、良質の政治性など、いわばマンパワーから発する知的な芳香で、私もとり憑かれた一人です。

 1プラス1イクオール2のn乗倍のパワーもあります。ご夫妻の絶妙なコラボレーションと愛子夫人の魅力です。今回の出版もペアワークの成果と思います。笑みと和み、思いやりの波動が爽やかに伝わってきます。私の妻も愛子さんとの出会いとおつき合いを喜んでおります。

 つき合うほどに親近感が増してきます。同世代で話が通じやすいこともですが、育った海浜の風土や少年時代の境遇や体験など似たところが少なくありません。そのことを肌身に感じさせてくれたのが一連の文芸作品です。

  • *あさり売りの詩(1990刊)
  • *おらんだらん、ちゃっけいころん(1994)
  • *イルカに乗った河童(2000)
  • *総じてハッピー変わりゆく浦安とともに(2008)
  • *一つ圦(いり)の河童と記念橋の先生(2009)

 私が読んだのは5冊にすぎませんが、著者を育てた浦安の風土と自己形成の過程が非常に良く分かります。とり分け《あさり売りの詩》と《おらんだらん、ちゃっけいころん》はまぶしいくらいの明るさです。敬之助少年のまなこがきらきら輝いており、逆境にめげないたくましさには羨ましくなります。さらに、外国語のような耳ざわり(方言まじり)の書きっ振りが物語りをかえって「味わい深く」(児童文学者、安藤操先生評)しています。

 海苔とあさり沸く豊饒な海・ススキ野や葦原に鳴くヨシキリの群れに、山本周五郎の《青べか物語》がよみがえり、ロケーションこそちがえ三浦洸一の《流れの船唄》までつい口遊んでしまいます。

 既刊の民話《一つ圦の河童と記念橋の先生》ですが、海浜に近い自然陸地や干拓地の堤防筋には、かって水門・樋門の風景がどこそこに見られ、辺りの深みから河童が必ず現れました。同じく《イルカに乗った河童》には、汽水域というには余りにもバカでかい東京湾ならではの珍しい顔合わせが生まれています。童話ならではのファンタジーですね。

 以上、宇田川作品にはふるさとの原風景と幻風景が詩情豊かに活写されています。読むうちに、浦安かっぱ村設立の動機、べか舟カッパ碑建立や境川(浄化運動)へのたぎる情念が自ずと見えてきました。

千葉県議時代、議会芸術文化振興議員連盟会長だった経歴からも文人政治家の一面を知ることができました。  

『浦安かっぱ物語―ふるさと浦安の原風景の中で』発刊によせて
二〇一〇年